東京高等裁判所 昭和49年(ラ)169号 決定
本件再審の申立ての要旨は、横浜地方裁判所川崎支部が同庁昭和四七年(ヌ)第二号不動産競売事件につき昭和四七年四月一日に言い渡した競落許可決定はその競売申立ての基礎となった公正証書が偽造のものであり、これが公正証書の偽造者である辺見イセに対し公正証書原本不実記載の罪により告訴したところ、検察庁は右公正証書の前提となっている右イセに対する私文書偽造及び同行使被疑事件につきイセに対する嫌疑濃厚であるが参考人が所在不明との理由で中止処分に付したものであって、右競落許可決定はその裁判の証拠となった文書が偽造せられたものであるときにあたり、しかも右の中止処分は証拠欠缺外の理由により有罪の確定判決をうることができないときにあたるので民事訴訟法四二〇条一項六号二項後段の再審事由に該当する、というのである。しかしながら、不動産強制競売手続において、執行裁判所は、いやしくも執行文が付与せられている債務名義に基づいて強制競売の申立てがあった以上、その執行力ある債務名義について執行開始の要件が備わっているかぎりは、競売手続を進めることができ、また進めるべきであって、その債務名義が公正証書である場合にはそれに表示された請求権の不存在又は消滅の事由があるときあるいは偽造の委任状にもとづいて作成されたときは、請求に関する異議の訴え(民事訴訟法五四五条)によってその執行力を排除すべく、また執行文付与についての形式的な瑕疵例えば同法五五九条三号の要件を缺くときは、執行文付与に対する異議(同法五二二条)ないし訴え(同法五四六条)により強制執行の不許の裁判(又は訴えの提起、異議の申立てにともなう執行停止の裁判)をえて、執行裁判所に提出したときにかぎり、執行裁判所は、その裁判の内容に応じ、執行を取り消し、又は停止すれば足り(同法五五〇条五五一条)、執行裁判所においては、その債務名義の実体的効力又は執行文付与についての形式上の瑕疵についてまで審査する必要はないのであって、強制競売手続のうちにおいては、執行裁判所が判断すべき事項に関してのみその瑕疵を主張することができるものとするのが強制競売手続における立前というべく、したがって、強制競売手続においてなされる競落許可あるいは不許可に関する決定も、債務名義の実体的効力又は執行文付与についての形式上の瑕疵につき審査して裁判されるものではないから、本件の場合債務名義たる公正証書自体右決定の証拠となった文書にはあたらないものといわなければならない。すると、競落許可決定が確定した後にその競売手続の基本となった債務名義たる公正証書が当事者の意思に基づかないで権限のない代理人によって作成されたとし、その公正証書の偽造を理由とする同決定に対する再審の申立ては、民事訴訟法四二〇条一項六号に該当せず、したがってその再審の事由を欠くので、結局本件再審の申立ては不適法として却下を免がれない。
(久利 舘 安井)